データレポート

「待機児童ゼロ」の街で、
1,081人が保育園に入れていない

横浜市も川崎市も、待機児童はゼロです。でも保活をした人の実感は、たぶん全然違うと思います。その差がどこから来るのかを、両市の公開データと、このサイトで毎月ためている1,823園分のデータで分解してみました。

2026年9月1日公開 / 横浜・川崎保活マップ 運営者

この記事の内容

  1. 「待機児童ゼロ」って、何を数えているんだろう
  2. じゃあ、誰が待っているのか
  3. 「激戦区」は本当にあるのか(仮説が外れました)
  4. 人口を見てみたら、いろいろ腑に落ちた
  5. 東京との差が、いちばん厳しいところで開いた
  6. 僕なりの仮説
  7. これから保活する人に、伝えたいこと

はじめに

こんにちは。横浜・川崎保活マップを運営している者です。

このサイトを作ったのは、自分が保活で本当にしんどい思いをしたからです。上の子のときは希望した園にことごとく入れず、最終的に自宅からかなり離れた園に決まって、送迎に往復1時間かけて通っていた時期がありました。朝の時間って、10分でも本当に貴重じゃないですか。あれを毎日やるのは、正直きつかったです。

そのときいちばん困ったのが、情報がどこにもまとまっていないことでした。市のサイトにPDFはあるんです。でも「うちの子の年齢で、この辺で、いま空いてる園はどこ?」という、いちばん知りたいことが分からない。エクセルに転記しながら、なんでこんなことを親がやらなきゃいけないんだろうと思っていました。それで作ったのがこのサイトです。

で、本業のほうはマーケティングの仕事をしていて、普段からデータを触っています。だからニュースで「横浜市、2年連続で待機児童ゼロ」という見出しを見たときに、真っ先に思ったのが「え、ゼロ?」でした。あのしんどさは何だったんだろう、と。

気になったので、両市の公開データを片っ端から集めて、自分のサイトで毎月ためている1,823園分のデータと突き合わせて、けっこう本気で分析してみました。人口動態まで遡ったので、長くなっています。

学術的な調査ではないですし、あくまで一人の親が趣味の延長で調べたものです。「そういう見方もあるのか」くらいの気持ちで、気楽に読んでもらえたら嬉しいです。

1. 「待機児童ゼロ」って、何を数えているんだろう

結論から言うと、「待機児童ゼロ」と「保育園に入れた」はイコールではありませんでした。

川崎市の公表資料がすごく親切で、計算過程をそのまま載せてくれています。令和8年4月の数字です。

川崎市 令和8年4月:保留児童1,081人が「待機児童0人」になるまで 1,081 人 保留児童数 市の保育施策で対応 −182 企業主導型保育 −55 育休関係 −429 特定の保育所等を希望 −396 求職活動を休止 −19 待機児童数 0 人
川崎市「令和8年4月 保育所等利用申請・待機状況」より作成

見ていただくと分かるとおり、申し込んだのに入れなかった人は1,081人います。その全員が、6つの区分のどれかに当てはまって「この人は待機児童ではありません」と整理されて、最終的にゼロになる。そういう構造でした。

これ、川崎市が数字を小さく見せようとしている、という話ではまったくないので、そこは強調しておきたいです。この分類は国が決めた基準で、全国の自治体が同じやり方で数えています。市の担当者が任意に決められるものではありません。

僕が思ったのは、市がどうこうというより、「待機児童」という指標のほうが、いまの保活の実感を測る道具として合わなくなってきているんじゃないかということでした。もともとこの指標は、待機児童が何万人といた時代に「どれだけ減ったか」を追うために作られたものです。当時はよく機能していたはずです。でも数字が小さくなってくると、定義の細かい部分が結果を大きく左右するようになります。

いちばん考えさせられた区分

なかでも目を引いたのが、396人が該当している区分です。定義を引用します。

利用可能な保育所等があるにもかかわらず利用を辞退した方、通常の交通手段により自宅から20〜30分未満で登園が可能な保育所等又は市の保育施策の対象施設があるにもかかわらず利用を希望されない方など

つまり、片道20〜30分の園を案内されて「ちょっと通えないです」と断ると、待機児童のカウントから外れるんですね。

冒頭に書いた、往復1時間かけて通っていた話。あのとき僕が断っていたら、統計上は「特定の保育所等を希望」に分類されて、待機児童ではなくなっていたわけです。

毎日往復1時間の送迎を続けるか、断って統計から消えるか。どちらを選んでも「待機児童ゼロ」に貢献してしまう。これに気づいたときは、なんというか、ちょっと笑ってしまいました。

念のため。片道20〜30分という線引きが不当だと言いたいわけではありません。どこかで線は引かないといけないですし、20分なら通える人もたくさんいると思います。ただ、その線の内側と外側で全然違う生活になるということは、数字を見るときに知っておいていいと思うんです。

2. じゃあ、誰が待っているのか

横浜市の保留児童は1,256人(令和8年4月、育休延長希望を除く)。これは過去最少で、前年から255人減っています。3年で約3割減なので、これは素直にすごい改善だと思います。市の取り組みは、ちゃんと効いています。

ただ、内訳を見ると話が変わってきます。

1,256人のうち、1・2歳児が894人。71%です。

横浜市も分かっていて、対策の方向性の第一項目に「1・2歳児の受入枠の確保」を掲げています。ボトルネックの認識は市も僕らも一致している、ということですね。

自分のサイトのデータで見てみる

ここからは自分で集めたデータの話です。毎月、両市の公開データから1,823園分の受入可能数と入所待ち人数を取り込んでいるので、年齢別に集計してみました。

空き1枠あたりの申込(延べ)— 0〜1歳と3歳以上で桁が違う ■ 横浜市 ■ 川崎市 67.3 32.1 0歳 20.4 20.3 1歳 2.5 4.8 2歳 3歳 4歳 5歳 3歳以上は枠が余っている
横浜・川崎保活マップが両市の月次公開データから集計(2026年10月入園)

きれいに断層が出ました。0歳と3歳では40倍以上の差があります。

3歳以上は、むしろ枠が余っています。横浜だと0〜2歳の空きが944なのに対して3〜5歳は2,795。3歳以上のほうが2.6倍多くて、しかも申し込む人が少ない。川崎はもっと極端で3.1倍です。

なので「保活が大変」と言うとき、それは実質的に「0〜2歳の保活が大変」という意味なんだなと。同じ言葉で語られているけれど、中身はまったく別のものだと考えたほうがよさそうです。

数字の読み方だけ補足させてください。ここでの「入所待ち人数」は延べ数です。1人が5つの園に申し込めば、5園それぞれにカウントされます。なので「1枠に22.5人の子が並んでいる」という意味ではありません。申込がどれだけ集中しているかの目安として見てください。ここ、間違えやすいところです。

「3歳の壁」は、設計に組み込まれている

もうひとつデータから分かったことがあります。両市で393園が0〜2歳しか受け入れていません。多くは小規模保育や家庭的保育ですが、0〜2歳だけの保育所も含まれます。これらの園には3〜5歳の枠が一つもありません。

0〜2歳が足りないから小規模保育を増やす、というのは枠の確保としてはすごく合理的です。実際それで保留児童は減っています。ただその結果として、3歳になったら必ずもう一度保活をしないといけない家庭が構造的に生まれる。

「3歳の壁」って、運が悪かった人の問題みたいに語られがちですが、データを見るといまの仕組みだと必ずそうなるという話なんですよね。ここは知らずに小規模保育を選ぶと、2年後にけっこう焦ることになると思います。

3. 「激戦区」は本当にあるのか(仮説が外れました)

次に場所の話です。結論から言うと、ここは僕の見立てが外れました。

最初に見えた「5倍の差」

まず「0〜2歳のクラスがある園のうち、実際に空きがある園は何%か」を区ごとに出しました。延べ数の影響を受けない指標を選んだつもりでした。

入りにくい側入りやすい側
泉区(横浜)11%高津区(川崎)60%
瀬谷区(横浜)11%中区(横浜)56%
旭区(横浜)14%幸区(川崎)53%
多摩区(川崎)15%金沢区(横浜)51%
港南区(横浜)20%神奈川区(横浜)51%

5倍です。しかも下位に泉区・瀬谷区・旭区と、相鉄沿線が並んでいる。

僕はもともと横須賀線沿いに住んでいて、そのあと相鉄沿線に移りました。だからこの表を見たときは「やっぱり沿線で決まっていたのか」と、すっかり納得してしまいました。

でも、自分の体験を裏づける結果が出たときがいちばん危ない。そもそも「どの路線も混んでるでしょ」というのが普通の感覚です。というわけで検証したら、この解釈はほぼ間違いでした。

検証1:定員が足りていないのか? → 関係なかった

横浜市が公表している区別の年齢別人口(令和8年1月1日現在)を持ってきて、自分のデータの定員と突き合わせました。その区に住む0〜2歳の子ども1人あたり、保育園の枠がどれだけあるか(定員 ÷ 0〜2歳人口)という数字です。ここでは供給率と呼びます。

結果、供給率は39.7%〜56.3%。空き状況との関係を相関で見ると0.25でした。1に近いほど「きれいに連動している」、0に近いほど「関係ない」という数字です。つまりほぼ無関係ということになります。旭区の供給率は50.8%で18区の中位、青葉区は46.5%で旭区より低い。なのに空きのある園は旭区14%、青葉区50%です。定員の量では説明できませんでした。

検証2:需要が高い区が厳しいのか? → これも関係なかった

次に見たのは、その区の0〜2歳のうち、実際に何割が保育園に通っているか(在籍 ÷ 0〜2歳人口)。共働きの家庭が多い区ほど高くなるはずの数字です。

結果は39.5%〜54.7%。空き状況との相関は……0.05。ほぼゼロでした。「需要の高い区は入りにくい」という、当たり前に思える予想がまったく成立しませんでした。

検証3:じゃあ何が効いているのか → 充足率だけ

最後に残ったのが充足率、つまり定員のうち何割が埋まっているか(在籍 ÷ 定員)です。相関はマイナス0.93。埋まっているほど空きがない、という当たり前の関係ですが、効いていたのはこれだけでした。

横浜18区の 0〜2歳 充足率(在籍 ÷ 定員) 18区すべてが94%以上。差は5.5ポイントしかない 92% 94% 96% 98% 100% ← この範囲に18区すべてが収まる 旭区 99.5%(空きのある園 9%) 都筑区 94.6%(空きのある園 47%)
横浜市「市・区の年齢別の人口」と当サイトのデータから算出(2026年10月入園)

そして、ここが今回いちばん大事なところです。

充足率の差は、93.9%から99.4%までの、たった5.5ポイントしかありません。

横浜18区すべてで、0〜2歳の定員は94%以上埋まっています。

つまり「激戦区」というより「どこも満杯」

僕が最初に見た「5倍の差」は、5.5ポイントの差が45ポイントに膨らんで見えていただけでした。

考えてみれば当たり前で、定員100人の区で94人埋まっていれば6枠空きますが、99人埋まっていれば1枠しか空きません。埋まり具合の差はわずか5人でも、残った枠の数で見ると6倍の差になる。空き状況という数字は、ほんの小さな差を大きく見せてしまうんですね。ここは自分でもけっこう驚きました。

「入りやすい区と入りにくい区がある」のではなく、「どこも94%以上埋まっていて、そのわずかな差が空き枠には大きく出る」。

「どの路線も混んでるでしょ」という素朴な感覚のほうが、データ的には正確でした。相鉄沿線だから厳しい、という話ではありません。実際、下位には港南区・戸塚区・南区といった相鉄沿線ではない区も混ざっています。

じゃあ、その5.5ポイントの差はどこから来るのか

ここからは推測の度合いが上がりますが、ひとつ手がかりがありました。月ごとの在籍数の動き、つまり人がどれだけ入れ替わっているかを区ごとに見ると、相関は0.70とかなりはっきりしていました。人の入れ替わりが少ない区ほど、空きが出ていません。

せっかくなので、両市25区ぶんを全部載せておきます。空きのある園が少ない順です。

0〜2歳
クラスのある園
空きのある
園の割合
充足率月あたり
在籍変動率
旭区横浜769%99.5%0.19%
泉区横浜4611%99.3%0.32%
多摩区川崎7212%
瀬谷区横浜3614%99.2%0.22%
宮前区川崎7620%
港南区横浜6522%99.0%0.48%
戸塚区横浜10423%98.5%0.65%
保土ケ谷区横浜5828%98.7%0.53%
鶴見区横浜10928%98.0%1.11%
川崎区川崎6829%
南区横浜4931%98.6%0.42%
麻生区川崎4831%
磯子区横浜5131%97.1%0.59%
中原区川崎12235%
港北区横浜16037%96.8%0.44%
緑区横浜6138%97.8%0.72%
金沢区横浜4538%95.8%0.99%
幸区川崎7838%
青葉区横浜9042%95.9%0.51%
神奈川区横浜9243%95.2%0.83%
西区横浜4146%94.9%0.64%
栄区横浜3247%95.3%0.70%
都筑区横浜6847%94.6%1.41%
高津区川崎8948%
中区横浜4351%95.3%1.08%

充足率と在籍変動率は横浜18区のみ。川崎市が公表しているのは在籍児童数ではなく内定数のため、この2つは計算できません。網かけは充足率99%以上/94.5%以下の区です。

旭区・瀬谷区・泉区は、持ち家中心で定住性が高いエリアです。一度入園したら卒園まで動かない。だから年度途中に空きが出ない。一方、都筑区や中区のように転勤・転居が多いエリアは、抜ける人がいるぶん空きも出ます。

つまり「空きがない=激戦」ではなく、「空きがない=人が動かない」という説明のほうが、データには合っています。

ただ、表を全部見ると分かるとおり、きれいな一直線ではありません。青葉区は変動率0.50%と低いのに空きのある園は50%ありますし、港南区は同じ0.50%で20%です。はっきりしているのは両端、とくに旭区・瀬谷区・泉区が変動率でも空き状況でも最下位に固まっていることで、真ん中はばらついています。

それに因果の向きも特定できていません。空きがあるから人が入れる(=在籍が動く)という逆向きの説明も当然あり得て、むしろこちらのほうが自然かもしれません。手元にある4か月分のデータでは、ここは切り分けられませんでした。

駅からの距離も見てみた

全園の緯度経度と最寄り駅の距離を計算して、空き1枠あたりの申込数を出すと、駅近が25.5、それ以外が8〜13で2〜3倍になります。ただしこれも延べ申込数なので、充足率で見直しました。

最寄り駅からの距離充足率空きのある園%
〜300m97.3%33%
300〜600m96.6%40%
600m〜1km96.6%39%
1〜1.5km96.8%37%
1.5km〜97.0%28%

差は0.7ポイント。ほぼありません。しかも空きのある園の割合でいえば、いちばん少ないのは駅から1.5km以上(28%)でした。というわけで、この2つはまったく別のことを測っていました。

「駅から遠い園は不人気で空いているんだろう」と思っていたのですが、遠い園も同じくらい埋まっていました。ただ、駅近に申込が集中するのは事実なので、希望順位を駅近だけで固めるより散らしたほうが、期待値としては上がるはずです。

この章について。充足率の分析は横浜18区に限定しています。川崎市が公表しているのは在籍児童数ではなく内定数なので、充足率が計算できないためです。冒頭の表で川崎の区が混ざっているのは「空きのある園の割合」までで、それ以降の検証には含まれていません。

4. 人口を見てみたら、いろいろ腑に落ちた

ここまでが「いま起きていること」の話です。でも僕がいちばん知りたかったのは、「少子化って言われてるのに、なんで保活は楽にならないんだろう」でした。子どもが減っているなら、そのうち空くはずじゃないですか。

横浜市の人口が、ついに減った

令和7年国勢調査の速報値が出ています。横浜市の人口は3,754,840人。前回(令和2年)から22,651人の減少、率にして0.6%減です。

これ、なかなかの出来事で、横浜市の人口は大正9年の第1回調査以来、大正14年と昭和22年を除いてずっと増え続けてきました。100年以上、基本的に右肩上がりだった街が、はっきり減少に転じたということです。区別に見ると、18区のうち6区で増えて12区で減りました。

増えた区増減減った区増減
神奈川区+5,213金沢区▲6,690
港北区+5,115港南区▲5,626
中区+3,277旭区▲5,558
西区+3,180保土ケ谷区▲4,207
都筑区+853青葉区▲3,507

しかも鶴見区・保土ケ谷区・磯子区・緑区・青葉区・戸塚区は、前回まで増えていたのに今回減少に転じました。青葉区や戸塚区みたいな、いわゆる人気の住宅地が減り始めているのは、なかなか考えさせられます。

世帯数のほうは1,792,729世帯で過去最多。一方で1世帯あたりの人数は2.09人で過去最少です。人は減っているのに世帯は増えている。単身世帯と、子どもの少ない世帯が増えているということですね。

でも、子育て世代だけは過去最大で入ってきている

ここが面白いところです。住民基本台帳ベースの令和7年中の人口動態を見ると、横浜市は+164人で2年連続のプラスでした。中身がすごく示唆的です。

亡くなる人と生まれる人の差が約1.9万人のマイナス、それを転入超過の約1.9万人でちょうど打ち消している。かなりきわどいバランスです。そして社会増加数は4年連続で増加していて、しかも20〜40代の社会増加数は過去20年で最大を記録しました。

つまり、街全体としては人口が減っているのに、保活をする世代だけは過去最大の勢いで流入している。これじゃあ保育需要は減らないですよね。ここで一つ腑に落ちました。

川崎市は増えている。でも中身を見ると

川崎市は令和7年に+7,545人と、まだしっかり増えています。自然増減は▲3,676人、社会増減は+11,221人。社会増減は平成9年以降、29年連続で転入超過です。区別では多摩区が+2,095人で最多、麻生区だけが▲259人で5年連続の減少。そして7区すべてで自然減です。

で、ここからが本題です。年齢5歳階級別の社会増減を見てください。

川崎市 令和7年:年齢5歳階級別の社会増減(転入−転出) 転入超過は20代に集中し、0〜4歳は転出超過 -1,498 0〜4歳 5〜9歳 10〜14歳 +1,758 15〜19歳 +9,081 20〜24歳 +5,599 25〜29歳 30〜34歳 35〜39歳 40〜44歳 45歳以上
川崎市「川崎市の人口動態 ―令和7(2025)年―」より作成

転入超過が最大なのは20〜24歳。転出超過が最大なのは0〜4歳。

10歳未満と35歳以上は、すべての階級で転出超過でした。市の資料も「年少者と主に家庭内に未就学児や小学生の子どもがいると思われる年齢階級の転出が多くなっています」と書いています。

川崎市の人口は増えていますが、その増加分は20代の転入が中心で、0〜4歳の年齢層は転出が上回っているということになります。世帯の形が変わるタイミングで、市内にとどまる人と市外に移る人が分かれている、という読み方ができそうです。

転出先も見てみました。川崎市は東京都区部に対して2,198人の転入超過である一方、横浜市に対しては881人の転出超過でした。東京都区部 → 川崎 → 横浜という流れが、数字にはっきり出ています。

ただし、保活が理由だと断定はできません。というか、住宅の広さと値段のほうが主な理由でしょう。子どもが生まれたら賃貸のワンルームや1LDKでは手狭になるし、そのタイミングで持ち家を検討する人は多いはずです。この数字だけで「保活のせいで出ていっている」と言うのは、さすがに言いすぎだと思います。ただ、川崎の0〜2歳の状況が厳しいのも事実で、いくつかの要因が同じ方向に働いているんだろうな、とは思っています。

子どもは、実際にかなり減っている

念のため、少子化そのものも確認しておきます。川崎市の就学前児童数は3年で8,584人減、率にして12.2%減。出生数も横浜市が21,831人(前年比▲306)、川崎市が10,395人(同▲478)と減り続けています。

川崎市の出生数の歴史がなかなか強烈で、第2次ベビーブームの昭和48年には23,325人いました。それが平成27年に35年ぶりに15,000人を超えたあと、また減少に転じて、いまは10,395人。ピークの半分以下です。川崎市は令和3年に、政令指定都市になって以来はじめての自然減を記録しました。

なのに、申し込む人は減っていない

で、ここが今回いちばん驚いた数字です。子どもが12%も減っているのに、保育所等の利用申請者数がほとんど減っていません。

川崎市:就学前児童は12%減ったのに、申請率は上がり続けている ■ 就学前児童数(左軸) ― 申請率(右軸) 70,441 R5 67,590 R6 64,470 R7 61,857 R8 51.8% 55.0% 57.5% 59.8%
川崎市「保育所等利用申請・待機状況」(令和7年4月・令和8年4月)より作成

3年で申請率が51.8%から59.8%へ。いまや就学前児童の約6割が保育所等に申し込んでいます。

分母が12%減ったのに、申し込む割合がそれ以上のペースで上がった。だから申請者数は横ばい。これが「少子化なのに保活が楽にならない」ことの、いちばん直接的な答えだと思います。

共働きが当たり前になって、育休から復職するのが前提になった。子どもが生まれたら保育園に預けて働くのが標準ルートになった。その変化のスピードが、少子化のスピードを上回っている、ということですね。

申請率には上限があります。100%は超えられない。なので理屈のうえでは、いつか少子化が追いつく日は来ます。でも川崎の数字を見るかぎり、まだ当分は追いつきそうにないというのが正直な感想です。

5. 東京との差が、いちばん厳しいところで開いた

もうひとつ、見逃せない変化がありました。東京都が2025年9月から、第1子の0〜2歳の保育料を所得制限なしで無償化しました。3〜5歳は2019年から国の制度で全国どこでも無償なんですが、0〜2歳は住民税非課税世帯を除いて有償のままです。横浜市も川崎市も、第1子の0〜2歳は有償です。

つまり、いちばん入りにくくて、いちばんお金がかかる0〜2歳という区間でだけ、都県境の向こう側が無料になった、ということになります。

これが子育て世代の住む場所の選び方にどう効いてくるかは、正直まだ分かりません。保育料だけで住む場所は決まらないですし、家賃や住宅価格のほうが影響は大きいでしょう。ただ、川崎の0〜4歳が転出超過という数字を見たあとにこの話を知ると、少し考えてしまいます。今後2〜3年の人の動きは見ておきたいところです。

6. 僕なりの仮説

ここまでのデータを、自分なりにまとめます。あくまで仮説です。

① 「待機児童ゼロ」は達成されているが、それは保活が終わったという意味ではない。
川崎で1,081人、横浜で1,256人が、申し込んで入れていません。定義の問題であって、誰かが嘘をついているわけではない。ただ、この指標だけを見て判断するのはもう無理があります。

② 問題は「保活」全体ではなく、0〜2歳に集中している。
3歳以上は枠が余っています。0歳と3歳では40倍の差。同じ言葉で語るのをやめたほうがいいくらい、別の話です。

③ 「激戦区」という言い方は、たぶん実態に合っていない。
これは自分の仮説が外れた項目です。横浜18区すべてで0〜2歳の定員は94%以上埋まっていて、区ごとの差は5.5ポイントしかありません。特定の区や沿線が悪いのではなく、全域が満杯というのが正確なところでした。

④ 少子化が保活を楽にしないのは、申請率が上がり続けているから。
子どもは3年で12%減った。でも申請率は51.8%→59.8%。分母が減ったぶんを、申し込む割合の上昇が打ち消しています。

⑤ さらに横浜では、子育て世代の流入が過去20年で最大。
街全体は人口減少に転じているのに、保活の当事者だけは増えている。だから体感が改善しない。

⑥ 川崎市の人口増は、20代の転入が中心。
20〜24歳が+9,081人の一方、0〜4歳は▲1,498人の転出超過でした。理由としては住宅事情がいちばん大きいと思いますが、そこは今回のデータでは分かりません。

7. これから保活する人に、伝えたいこと

分析はここまでにして、最後に実務的な話を。自分がやってしまった失敗も含めて書きます。

「待機児童ゼロ」をあてにしないでください。
見るべきは保留児童数と、自分の子の年齢の空き状況です。市全体の待機児童数は、0〜1歳を預けたい人にとってほぼ何の情報にもなりません。

年齢で難易度が全然違うことを、先に知っておいてください。
0〜1歳は空き1枠に対して申込が20件前後。3歳以上は0.5件以下。周りの先輩から聞く話が、自分の子の年齢の話とは限りません。

「あの区は激戦だから避けよう」という選び方は、あまり意味がないかもしれません。
横浜18区はどこも94%以上埋まっていて、差は5.5ポイント。引っ越し先の区で保活が劇的に楽になる、ということは期待しないほうがよさそうです。区より、通える範囲に何園あるかのほうが効くと思います。

駅から遠い園も、同じくらい埋まっています。
「遠い園なら空いているだろう」と思っていたのですが、充足率はほぼ同じでした。ただし駅近の園には2〜3倍の申込が集まるので、希望順位の付け方では意味があります。第1希望を駅近で固めるより、散らしたほうが期待値は上がるはずです。

小規模保育を選ぶなら、3歳での転園を最初から予定に入れてください。
393園が0〜2歳専用です。2年後にもう一度、同じことをやることになります。

長い記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。調べてみて分かったのは、保活の大変さは誰かの怠慢のせいではなく、少子化・共働き化・人の流入・土地の制約が全部同じ方向に働いた結果だということでした。だからといって当事者が楽になるわけではないのですが、「なぜこうなっているのか」が分かるだけでも、少しは気が晴れるところがあるんじゃないかと思っています。

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