共働き世帯あたりの保育園の枠は、
区で7倍ちがう
このサイトは「いま何枠空いているか」を毎月出しています。でもその区に何世帯が待っているのかは、ずっと持っていませんでした。分母がないまま「空き10枠」と言っても、それが多いのか少ないのか分かりません。国勢調査から区別の共働き世帯数を取り出して、その分母を埋めました。共働き100世帯あたりの空き枠は、横浜南区の1.54から横浜神奈川区の10.80まで7.0倍ちがいました。
この記事の内容
空き枠だけ見ていても、分からないこと
このサイトを作ってから、ずっと引っかかっていたことがあります。
「A区は空き枠が30、B区は10」と出せても、それが入りやすさを意味するとは限らない。A区の子育て世帯がB区の5倍いれば、話は逆になります。分母を持っていなかったので、そこを言えませんでした。
入所待ちの人数は市が公開しているので、それを使えばいいと思うかもしれません。ただこれは「申し込んだ人」の数で、その区にどれだけ保育を必要とする世帯があるかとは別です。申し込みを諦めた人も、まだ産まれていない子の親も入りません。
必要なのは、もっと手前の分母です。その区に、小さい子がいて、夫婦とも働いている世帯が何世帯あるか。
国勢調査には、区ごとの共働き世帯数がある
国勢調査の第25-1表が、まさにそれを持っていました。
この表は市区町村ごとに「夫婦のいる一般世帯」を、最年少の子の年齢(各歳)× 夫の労働力状態 × 妻の労働力状態で集計しています。政令市の区も「市区町村」に含まれるので、横浜18区・川崎7区がそれぞれ取れます。
ここから「最年少の子が0〜5歳で、夫が就業者かつ妻が就業者の世帯」を抜き出しました。25区あわせて、0〜5歳の子がいる夫婦世帯は180,689世帯。そのうち共働きは86,561世帯です。
供給側は当サイトのデータを使いました。認可保育所等の受入可能数を0〜5歳ぶん合計し、区ごとに直近12か月の月平均を取っています(横浜市 2025-07〜2026-07、川崎市 2025-11〜2026-10)。25区あわせて月平均5,461枠でした。
1か月の断面ではなく12か月平均にしたのは、受入可能数が月でかなり動くからです。4月に埋まって年度末に空く、という周期があるので、1か月だけ見ると区の順位が入れ替わります。
共働き率は、区で12.8ポイントちがう
まず分母そのものを見ます。0〜5歳の子がいる夫婦世帯のうち、夫婦とも働いている割合です。
いちばん高いのが川崎幸区の55.6%、低いのが横浜瀬谷区の42.8%。差は12.8ポイントあります。
市全体では川崎市49.6%、横浜市47.1%で、川崎のほうが高い。上位は都心へのアクセスがいい区が並びます。
個人的にいちばん意外だったのは青葉区でした。子育て世帯が多いイメージの区ですが、共働き率で見ると下位です。世帯の数が多いことと、共働きの割合が高いことは、別の話でした。
共働き100世帯あたりの枠は、7.0倍ちがう
分母と供給を割ります。共働き100世帯あたり、月平均で何枠空いているか。
いちばん厚いのが横浜神奈川区の10.80枠、薄いのが横浜南区の1.54枠。7.0倍の差です。
枠の数そのものではなく、待っている世帯に対する枠の厚さで見ると、区の並びが変わります。園数が多い区が有利とは限りません。
共働きが多い区ほど、枠も多い。ただし揃っていない
ここで気になるのは、行政が需要を見て整備しているのかどうかです。共働きが多い区に枠が多ければ、見ていることになります。
相関係数は横浜市 0.46、川崎市 0.41。どちらも正で、共働きが多い区ほど枠も厚い傾向はあります。整備が需要を無視しているわけではない、というのは正直なところ意外でした。
ただ0.5前後なので、揃っているとは言えません。図を見ると、同じ共働き率でも枠の厚さが3倍ちがう区が並んでいます。傾向はあるが、個別にはかなりばらついている、という読み方が正確です。
待っている人の数は「率」では決まらない
では、実際に待っている人の多さは何で決まるのか。ここは市ごとに分けて見る必要があります。横浜市の「入所待ち人数」と川崎市の「申請数」は別の指標なので、混ぜて計算すると意味のない数字になります。
| 相関係数 | 横浜市・入所待ち (18区) | 川崎市・申請数 (7区) |
|---|---|---|
| 共働き「率」との相関 | 0.17 | 0.61 |
| 共働き世帯「数」との相関 | 0.75 | 0.78 |
| 園数との相関 | 0.80 | 0.70 |
はっきりしています。待っている人の多さは共働き率ではなく、共働き世帯の「数」でほぼ決まる(0.75/0.78)。園数との相関も同じくらい高いですが、これは「大きい区は園も人も多い」という規模の効果です。
実用的な結論はこうです。「共働き率が低い区だから空いている」は成り立ちません。 率が低くても世帯数が多い区では、待っている人は多い。逆に率が高くても小さい区なら、待っている人は少ない。率は「枠の厚さ」を見るときの分母として使うもので、混雑の予想には使えません。
需要に対して、枠が薄い区
共働きの多さの順位と、枠の厚さの順位を比べると、そのズレが「需要に対して枠が足りているか」の目安になります。ズレが大きい区から並べます。
- 横浜戸塚区 … 共働きの多さは10位(47.6%)なのに、枠の厚さは24位(2.35)
- 川崎幸区 … 共働きの多さは1位(55.6%)なのに、枠の厚さは10位(6.99)
- 横浜磯子区 … 共働きの多さは9位(47.9%)なのに、枠の厚さは18位(4.14)
- 横浜鶴見区 … 共働きの多さは7位(48.6%)なのに、枠の厚さは15位(5.60)
- 横浜金沢区 … 共働きの多さは13位(46.6%)なのに、枠の厚さは21位(4.01)
逆に、共働きの割合はそれほど高くないのに枠が厚い区もあります。
- 横浜中区 … 共働き23位(43.6%)に対して、枠は3位(9.24)
- 横浜青葉区 … 共働き21位(44.7%)に対して、枠は8位(7.16)
- 横浜保土ケ谷区 … 共働き16位(45.8%)に対して、枠は5位(8.79)
これは「行政が手を抜いている」という話ではありません。用地が取れるか、事業者が来るか、既存園がどれだけあるかで、整備のしやすさは区ごとにまったく違います。ここで言えるのは結果としてこうなっているということだけです。
25区の全数値
共働き100世帯あたりの枠が多い順です。
| 区 | 共働き率 | 共働き世帯 | 園数 | 空き枠 (月平均) | 共働き100 世帯あたり |
|---|---|---|---|---|---|
| 横浜神奈川区 | 50.0% | 4,078 | 92 | 440 | 10.80 |
| 横浜西区 | 52.3% | 1,901 | 41 | 194 | 10.19 |
| 横浜中区 | 43.6% | 1,743 | 43 | 161 | 9.24 |
| 川崎高津区 | 48.4% | 4,391 | 94 | 405 | 9.22 |
| 横浜保土ケ谷区 | 45.8% | 2,759 | 58 | 242 | 8.79 |
| 川崎中原区 | 53.1% | 6,176 | 123 | 519 | 8.40 |
| 横浜港北区 | 51.3% | 7,146 | 163 | 544 | 7.62 |
| 横浜青葉区 | 44.7% | 4,703 | 92 | 337 | 7.16 |
| 川崎多摩区 | 50.8% | 3,845 | 75 | 273 | 7.09 |
| 川崎幸区 | 55.6% | 4,190 | 77 | 293 | 6.99 |
| 川崎宮前区 | 45.9% | 4,255 | 80 | 275 | 6.46 |
| 川崎麻生区 | 45.3% | 2,837 | 53 | 178 | 6.29 |
| 川崎川崎区 | 46.1% | 3,243 | 74 | 187 | 5.76 |
| 横浜緑区 | 47.3% | 2,999 | 64 | 172 | 5.72 |
| 横浜鶴見区 | 48.6% | 5,235 | 110 | 293 | 5.60 |
| 横浜瀬谷区 | 42.8% | 1,468 | 36 | 75 | 5.09 |
| 横浜泉区 | 47.4% | 2,182 | 47 | 93 | 4.26 |
| 横浜磯子区 | 47.9% | 2,505 | 51 | 104 | 4.14 |
| 横浜都筑区 | 45.2% | 3,709 | 69 | 153 | 4.12 |
| 横浜旭区 | 45.6% | 3,268 | 76 | 131 | 4.02 |
| 横浜金沢区 | 46.6% | 2,524 | 45 | 101 | 4.01 |
| 横浜港南区 | 45.5% | 2,818 | 69 | 102 | 3.62 |
| 横浜栄区 | 44.7% | 1,526 | 32 | 41 | 2.69 |
| 横浜戸塚区 | 47.6% | 4,796 | 105 | 113 | 2.35 |
| 横浜南区 | 43.6% | 2,264 | 49 | 35 | 1.54 |
この数字の限界
この記事の数字で言えないことを書いておきます。
- 国勢調査は2020年10月の調査です。 空き枠は直近12か月なので、6年ずれています。共働き「率」は世帯構造の指標なので、この期間で大きくは動きません。ただし共働き世帯の「実数」を今の分母として使うのは無理があるので、この記事では率と、率をもとにした比率だけを使っています
- 認可保育所等だけです。 認可外・企業主導型は含みません。認可外が多い区では、実際の受け皿はもう少し広いはずです
- 受入可能数は「今空いている数」で、定員ではありません。 定員が大きくても埋まっていれば0になります。埋まっている状態そのものが情報なので、この記事ではあえて空き枠のほうを使いました
- 横浜市の入所待ち人数と川崎市の申請数は、別の指標です。 上の相関は市ごとに分けて計算しています。市をまたいだ数値の比較はしていません
- ひとり親世帯を含みません。 使ったのは「夫婦のいる一般世帯」の表です。ひとり親世帯は利用調整で優先されるので、需要としては上乗せされます
- この記事の月は、市が公表したときの呼び方のままです(横浜市「◯月1日時点」・川崎市「◯月分」)。サイトの各ページは入園する月にそろえて表示しているため、横浜市の月は記事より1か月あとにずれて見えます(例: この記事の「8月」=サイトの「9月入園」)。川崎市はずれません。
- 相関は因果ではありません。 共働きが多いから枠が増えたのか、枠があるから共働きを選べたのか、この数字では区別できません
それでも、分母を持てたのは大きいと思っています。「空きが10ある」と「共働き100世帯あたり1.5枠しかない」は、同じ事実の別の言い方です。後者のほうが、自分がどこに並んでいるのかが分かります。
このシリーズの他のレポート
- No.01「待機児童ゼロ」なのに入れないのはなぜか0〜2歳への集中と「激戦区」の実像を分解しました
- No.02申し込むなら、何月か4月と2月で競争率が28倍。26か月分の時系列で見ます
- No.03子ども1人あたり、いくら使われているのか0歳児は3歳児の3.6倍。保護者が払っているのは6.1%
- No.04最寄り駅で、保育園の数は7倍ちがう徒歩20分圏の0〜2歳人口と園数を199駅ぶん比べました
- No.05夫婦で7園まわった見学の備忘録2回の保活の記録と、見学で聞くこと31項目
- No.06保育園が始まってからのやること28項目の分担表。名前を足して割り当てられます
- No.07川崎市33か月・申込と内定のデータ4月一次と3月で50倍。内定数まで追える川崎のデータ
- No.08入れた人は、どのランクだったのか川崎市が園ごとに出す内定下限ランクを2年分集計
区ごとの空き状況は、地図と区のページで毎月更新しています。この記事の分母(共働き世帯数)は5年に1度しか動きませんが、枠のほうは毎月変わります。
出典: 総務省統計局「令和2年国勢調査 就業状態等基本集計 第25-1表(夫婦のいる世帯の家族類型,子供の有無,最年少の子供の年齢(各歳),夫の労働力状態,妻の労働力状態別一般世帯数)」(e-Stat 政府統計の総合窓口)/横浜市「保育所等の入所状況」/川崎市「保育所等の受入可能児童数・利用調整結果」。いずれも公開データを加工して作成しています。